「え? 今から?」
「うん」

 思っても見なかった突然のお誘いに、嬉しさの余り思わず声が上擦ってしまう。いつも忙しい彼の事だから、今日は絶対会えないと思っていた。

「でも……今日は園がお休みだから子供達がいるの。だから、せっかくだけど……ごめんなさい」

 せっかくのお誘いなのに断ざるを得ない。
 後ろ髪を引かれる思いだが、こればっかりはどうする事も出来ないと受話器を握り締めながら、彼女は肩を落とした。
 彼にとって、彼女の存在は沢山いる女性の中の一人かもしれないが、子供達にとってはかけがえの無いたった一人の母。シングルマザーとなってからは、恋愛面だけでなくとも幾度とこういった選択を強いられてきたが、彼女の出す答えは全て一緒だった。