「スズ」
……発音は違うけど。
『すず』って彼に名前を1度でも呼んでもらいたかったな。
自己紹介をしなくても、呼んでもらいたかった。
それが…小さな望みだった。
「スズ!」
その声は、イラっとした口調に変わった。
え? …まさか…?
少しの希望を抱いて、ゆっくりと視線を足元から前に向ける。
すると、さっきまで目の前にいた聖羅ちゃんは見えなくなって。
すぐ目の前に藤谷くんの姿があった。
藤谷くんは真っ直ぐに私を見つめてくる。
…いまのは全部、本当に呼ばれてたの?
藤谷くんは…私の名前なんか、知らないはずなのに…?
それにアクセントが〝鈴〟だったのに?
私、自惚れすぎ…?
「ちょっと! 光輝!?」
私が言葉を発するより前に、藤谷くんの後ろにいた聖羅ちゃんが、焦ったように大きな声を挙げた。


