(すず)
昨日は…一緒に帰らなかった。
ううん、帰れなかった。
藤谷くんの前で泣いちゃったし…。
それに…どうせ放課後になったら、忘れてただろうけど。
私には話しかける勇気がなかったから。
いつもより重い足取りで学校に向かう。
街路樹の葉は緑から少しずつ赤にかわっていく。
そんな…いつもより少し風景の変わった通学路。
「すず! おはよっ」
元気よく私の隣に並んできた優芽ちゃんに、『おはよ!』と無理にでも笑って返す。
「どうかした…?」
「へ…。 ご、ごめん…言えないや」
藤谷くんの話は、勝手に言えない。
藤谷くんにとって〝初めまして〟の私に勇気を出して言ってくれたことだし…。
「…あ! 今日、転校生があたしらのクラスに来るんだって!」
そんな私を気遣って話を変えてくれる優芽ちゃんはやっぱり、優しい。
「女の子?男の子?」
「んー。 顧問は女だって言ってたよ!
どんな人が来るんだろうね〜っ」
「仲良くなれるといいね?」
「そうよね!」
優芽ちゃんのおかげで、少し足取りが軽くなった。
……気持ち的にも。
藤谷くんはもう忘れてる。
だから…私が悲しんでても意味がないから。


