「…うん!
逢原すずだよ!」
「………逢原…?」
「そうっ。 …もしかして、忘れちゃったの?」
「……っ」
そんな悲しそうな顔を見せないでよ…。
きっと、藤谷くんは悪くない。
「それなら…悪ぃ。
俺、人の顔が覚えられないから。
傷つけたんだったら…もう俺から離れたほうがいいよ」
嫌だよ、そんなの。
だって…そんないまにも泣きそうな顔をされたら、助けなきゃって思っちゃう。
なんだか…喉の奥がぎゅうっと締まる。
「じゃあもう一度覚えて。
私は…逢原すず」
「…逢原、すず」
昨日みたいに、藤谷くんは左手のてのひらに右手の人差し指で文字を書いている。


