「そっか。
逢原…ありがとう」
「ううん! …じゃあ、植えるね」
藤谷くんは、私を庇ったからいま怪我をしたことなんて知らない。
教えるタイミングがなくて。
…気づいたら、言えてなかった。
だからこそ、恩返しをしなきゃなあなんて思う。
私は空を見つめていた視線をベッドの上にいる藤谷くんに向けて。
藤谷くんと目が合うとにっこり笑って見せた。
「……光輝くんって呼んでもいい?」
「え? ……別に」
「私のことね、光輝くんは『すず』って呼んでたんだよ?
だから、名前で呼んでいいよ」
……光輝くんって呼ぶのは恥ずかしい。
でも、ちょこっとだけでも。
また近づきたかった。
「ん、わかった。 …すずって呼ぶよ。
つうか、俺 すずのこと思い出せんのかな」
「…へ?」
「だって、俺の友達なんだろ?」
「……うんっ」
思い出すのと、覚えるのと。
どっちが早いんだろう?
…でも、どっちも叶うといいな。
私がなにも言わなくても、光輝くんから名前を呼んでほしいな。
きっと前よりも、覚えてくれないからって辛くなりそう。
………夏が待ち遠しい。
そんな、6月の上旬の頃。


