「じゃあこの子は?」
「……この人も知りません」
藤谷くんは、私のときみたいに。
優芽ちゃんをわかるか聞かれても、首を傾げた。
「えっと……あなたは…」
「聖羅と、逢原すずの友達の大野優芽です」
「そうでしたか。
逢原さんと大野さんは、彼と元々知り合いだったんですよね?」
「………はい」
自分でも驚くくらいの低い声が出た。
だけど返事をしたのは、私だけで。
優芽ちゃんはチラチラッと私を見てきた。
…ああ、そっか。
藤谷くんと優芽ちゃんは知り合いでも、藤谷くんが覚えてたのかは曖昧だよね。
「あの、先生。
藤谷くんは…失顔症なんです」
「……どういうこと?」
私が先生に向けた言葉に返事をしたのは、先生ではなくて藤谷くんのお母さんだった。
…言ってなかったのかな?
藤谷くんのことだもん、言わなかったんだね…。
「光輝、病気なの?!」
「…藤谷くん、人の顔が覚えられないんです」
「……そうだったのか…」
藤谷くんのお母さんは訳がわからない、と言うような顔をして立っている。


