「……やっぱり…」
藤谷くんのお母さんが小さく呟いた。
…泣いちゃ、ダメだ。
我慢しなきゃ…だよね。
私は両手をぎゅうっと握りしめていますぐにでも零れそうになる涙を止めようとがんばる。
聖羅ちゃんの泣き声も聞こえなくなって。
病室はシーンと気まずい空気に包まれた。
ガラッ———。
だけどそんな空気を破ったのは、誰かがドアを開く音だった。
みんなが一斉にドアのほうに視線を送ると、そこには白衣を着た…お医者さんが立っていて、私たちに向けてぺこりとお辞儀をした。
「突然入って来てしまい申し訳ございません。
お友達がいらっしゃってたのですね」
「先生…!」
そう言って病室を出ようとした先生を、藤谷くんのお母さんが呼び止めた。
「どうしました?」
「……光輝はやっぱり記憶障害みたいです」
「……そうですか。
もしかして、お友達たちのことを思い出せないとかですか?」
「…そうみたい、です」
藤谷くんのお母さんの声のトーンが一気に下がった気がした。


