「しつこくなんてないし。
俺が人を覚えられるようにって、いろいろ考えてくれて嬉しかった。
だからいま、人の覚え方がわかったんだよ」
「……そっか」
「すず。 …今日一緒に帰ろう」
その言葉に、私はゆっくり振り返る。
…なんで、そんなこと言うの。
振り返って目に入った藤谷くんの顔は。
柔らかく、そして穏やかに笑ってた。
「……嫌ならいいんだけど」
嫌なわけないのに。
嬉しいのに。
…中々言葉が出て来なくて。
これじゃあ、まるで拒否してるみたい。
「い、いいよ…?」
「わかった。
じゃあ、放課後に迎えに行くから」
「……うん」
どうして急に、藤谷くんがそんなことを言い出したのか、全然わかんないし。
…それに、その約束…忘れないよね?
いつも、放課後に帰る約束をしてクラスに迎えに行っても。
もうそこにはいなくて。
…追いかけて、約束のことを言う前に。
自己紹介をしなきゃいけなくて。
藤谷くんから名前を呼ばれるのが。
いまは当たり前みたいになってるけど。
…本当は。
ものすごく嬉しいんだよ。


