藤谷くんはにっこり笑った。
まるでこの世界に私と藤谷くんしかいないみたいに。
風の音も、
葉の擦れる音も、
人の声も、
車の音も。
なにも聞こえなくなる。
強い風が髪をなびかせる。
紅い葉っぱが宙を舞う。
「私のこと…覚えてるの…?」
「あぁ。 聖羅が耳元でしつこくすずの名前を言ってくるし。
SNSで何回も何回もすずの写メ送ってくるし…」
藤谷くんは少し呆れた顔で言った。
私のことを藤谷くんが覚えてくれるように、聖羅ちゃんが…?
こんなに…嬉しいことはないよ。
泣きそうになっちゃうよ。
人に…名前も顔も覚えてもらうなんて。
ふつうのことなのに。
藤谷くんに覚えてもらうってことは、すごいことで。
とてつもなく幸せな気持ちになる。


