山本さんが何度もまだロープに唾をかけながら言った。


「行くか。俺から行くからな。」


井上ちゃんが、そこで大きな声で聞いた。


「山本さん!そう言えば帰りはどうするの?帰りは同じように行かないでしょう?」



確かにそうだ。すっかりその事を忘れていた。



帰りは傾斜が逆になるのだ。ロープを張り直してもこちらの方が高い場所になっているし難しいだろう。



それに業務用トラックからどうやって荷物をこちらに運ぶのか?


「それは向こうに行ってから考えるよ。とりあえず行く。」


山本の言い方に思わずコントのようにずっこけそうになった。


「向こうに行けばトラックも有るし中の荷物も有るだろう。そこから何か考えるよ。行かない事には始まらないだろう。」


確かに山本さんの言うとおりだが……


しかしリスクが高すぎる気がした。



「そうね。私は行かないから言う訳ではないけど、山本さんの言うとおりかも。それに何か有れば私が戻って救援を呼ぶしやるべきよね。」