渡辺さんの事を忘れはしないしこの先も何度も後悔の念や苦しみに襲われるだろうが、僕らにはほんの少しの希望が必要なのだと思った。


男から何も聞き出せなくても他に生存者が居てそれが、僕達と敵対しないと言うだけでも少しの希望なのだと思った。


僕は温泉に入る事を少し考えて気分が良くなった。


「私が樋口さんに話しかけたら無視されるかな?」


井上ちゃんが、少し不安な声で聞いてきた。


僕はそりゃないよと答えて井上ちゃんに笑って見せた。


「そうだね。もしも無視されても何度も話しかけたら何とかなるかも。」


僕はそうだよと答える。


井上ちゃんの中で何かが変わって来ているのだろうと思えた。


変わる為のきっかけが樋口さんと話す事なのかも知れない。



僕は手を合わせて渡辺さんに祈った。


僕らを見守って下さいとありがとうございますと何度も何度も祈った。