呼吸を忘れて
言葉も忘れて

光差し込む水の中
きみが見つけてくれたもの
いつしか私は知るでしょう

泳ぎ続けていたのはきっと

私だけではない、ってこと












「あー、今日は楽しかったな」

濡れた髪を首にかけたタオルで拭きながら。制服に着替えた私たちは、またプールサイドに戻ってきていた。
彼とここに来るときは空の真ん中にあった太陽が、少しずつ西に傾き始めている。

「ほんと好き勝手泳げたし。いつもよりプールも広く感じたし」

スニーカーを履いた足をとんとん、と鳴らした彼は、スラックスの前ポケットに手を入れた。

「これも、俺たちだけの秘密ですね」

そこから取り出したものを、もう一度太陽にかざす。きらきら光を変えながら、優しく色付く白いかけら。
どこからやってきたのか。本当は一体何なのか。私たちが人魚の鱗と名付けたそれは、彼の指先で一際きれいに輝く。

宝物を見つけた気がする。
ふたりで作り出した、夏の宝物を。


「俺、明日から先輩にすげー話しかけますから。また色々、話しましょうね」


ひとつ、またひとつと知っていく。
泳いでいるときに触れられるのは水だけではないということ。誰かの心に、触れるということ。


「うん。よろしくね、高木くん」

水で占められていた私の世界に、明日もまた出会いたい、笑顔がひとつ咲いたこと。