店の端に背を預け、若者は蕎麦が出てくるのを待つ。
すると待つまでもなく、さっと前の受け取り窓口から蕎麦の入った椀が突き出される。
若者は箸がのせられたそれを手に取ると、そそくさと、湯気を醸し出すそばを啜る。
若者はもそもそと蕎麦を咀嚼する。
1日と半日、なにも食べなかった若者の空きっ腹は、瞬く間に蕎麦と汁を吸い込んでいった。
若者は、2日前のドリアード襲撃事件の光景を思い出す。
誇り高きドリアードの民は愚か、長の跡継ぎである自身でさえ手も足も出なかった。
次々と、人が漆黒の“なにか”に飲み込まれて行く光景が、頭に焼き付いて離れない。
若者は最後の汁を啜り、ごとりと腕を置く。
(必ずや……報復を)
若者は爛々と眼光を光らせ、怨恨の念を漲らせる。


