「千花?」



「え、いや…あの……」



「なんでそんな焦るんだよ」



千花は諦めたのか、はぁとため息をついて。



「好きな人の、名前……」



ポツッと、呟いた。



それは俺にとって、大きな衝撃だったけど。



ずきん、と鈍い痛みが胸に走る。




「へぇ」



千花から目を逸してしまった俺は、千花の視線に気づかないまま。



「本当は……好きな人が生まれてくるときの名前の候補のひとつ、だったんだけど」



事実を告げていた千花の声さえ、頭に入ってきていなくて。



それを聞いてたら、気づいていたかもしれないのに。



千花の声なんて、全然頭に入ってきていなかった。