次の日、朝起きたらお母さんはいつも通りだった。そして、わたしの顔を見るなりくすりと笑う。

「どうしたの、目が腫れてるわよ」
「ちょっと、寝不足……」

 泣きながら布団に入ったから、両目瞼が真っ赤に腫れ上がっている。寝不足というか、泣き腫れたことにお母さんは気付いただろう。でも、それ以上突っ込まれることはなかった。

 ただ、お母さんもあれだけ泣いていたのに、どうして普段通りなのだろう。

「今日、用事で遅くなるから、ごはん作らなくていいからね」
「うん、わかった」

 きっと接待で飲みに行くのだろう。「大丈夫」と言いながら用意してくれた朝食を口につけた。

 いつものように忙しそうに動き回るお母さんの元気そうな表情は、わたしをほっとさせてくれる。まるで、昨日見たものは夢だったんじゃないかと思うほどだ。

 お母さんはずっと、あんなふうにときどきひとりで泣いていたんじゃないかと思う。わたしは昨日まで、なにも知らなかった。それでも、今日はすこしスッキリして見える。

 ――『美輝も、泣けばいいのに』

 鼻声の、賢の声が聞こえた気がした。
 

 お母さんが出ていった後の家の中は、とても広くて静かになる。

 ひとりきりなのに自分の部屋に篭もるのは好きじゃないのでリビングでテレビをつけながら夏休みの宿題に手を付け始めたけれど、全く進まない。

 ドラマやバラエティーの再放送が画面に流れているけれど、それが余計に寂しさを増す。

 この二日間こんなふうに寂しく感じていなかったことを思い出した。

 病院に行ったり、真知が家に来たりもしていたけれど、それよりも町田さんがいないことが原因だ。

 今日家に来ないということは、病院にいるのだろう。あんなふうにけんかして出ていったのだから、もうわたしに会いに来ることはない。さすがに目が覚めたら、あんな幽霊もどきにはならないだろうし。

「暇、だなあー」

 机に突っ伏してため息混じりに吐き出した独り言。
 テレビでは最近はやりのピン芸人が音楽に合わせて動いている。笑い声が虚しく響く。