「お父さんがいたら……美輝が泣かなかったのになって、思うわ」

 ティッシュをシュッと一枚引き出しながらお母さんが言った。

「お父さんは嘘ついたかもしれない。けど、全部が嘘じゃなかったって、お母さんは思ってる」
「……うん」

 ティッシュを受け取って、鼻を静かにかんでから小さく頷いた。

 でも、結果的に嘘だった。そう言いたかったけれど、これ以上話しているとお母さんを困らせてしまうだけだと思ったから、なにも言わなかった。

 たとえ、嘘じゃなかったとしても、あんな終わり方じゃ全てが嘘になってしまう。だって、真実はわからない。

 そんなわたしに新しい約束を、暖かな笑みとともにくれたのは、雅人だった。

 町田さんが言うように、わたしはそれに依存していたのだろう。雅人に抱くこの気持ちは、恋愛感情ではないだろう。お父さんの代わりの家族のような、そんな歪なものだったのかもしれない。

 それでも、わたしにとって雅人は大事な人なんだ。

 けれど、この気持ちは、雅人を苦しめているのかもしれない。

 雅人のことを知っている、わかっている。だから、そんなはずない。でも、不安になる。大好きな人を苦しめるような、そんなことは絶対にしたくないと思っていたのに、自分のこの執着に気付かされると、もしかして、と考えてしまう。

「雅人が言ってたんだ。死んだら、星になるんだって」
「まあ、そう言う人もいるわね」

 クスっと笑ってから、お母さんは少し黙る。そして、箸を置いて天井を仰いだ。

「でも、お母さんはどれだけきれいな星が見える夜空よりも、星の見えない青空のほうが好きかな」


 寂しそうなお母さんの笑顔に、わたしはそれ以上お父さんの話をするのをやめた