だから。

 ——『美輝のお父さんは星になったんだよ』

 そんなこと言われても嬉しくなかった。星になんてならなくていい。どうでもいいんだ。星になって見守れていたとしても、そんなの勝手だ。生きているときにどうして、わたしたちを大事にしてくれなかったのかと、そればかりを考えてしまう。

 うそつきなお父さんはもういない。

 今、わたしとお母さんの生きているこの場所から、時間から消えた。

 死ぬっていうのはそういうことだ。



「わたしは……お父さんのこと今も、嫌い」

 許せない。お母さんを泣かせたお父さんを許せない。わたしを裏切ったお父さんをどうすれば許せるのかわからない。

「美輝は、死んでよかったって思ってるの?」
「わかんない」

 お母さんが優しい声でわたしに問いかけた。

「お母さんは、やっぱり、生きていて欲しかったかな」
「どっちも、わかんないよ」

 生きていたら、わたしはもっとお父さんを嫌いになっていたかもしれない。

 生きていたら、お父さんはあの女の人と今も一緒に過ごしていたのかもしれない。わたしたちを騙し続けていたのかもしれない。そう思うと、すごく惨めな気持ちになる。

 死んでよかったと思ったことはない。だけど、あのとき生きていてほしかった、とはまだ、思えない。だから、生きていて欲しかったと言えるお母さんの気持ちもわからない。

 どちらも受け入れることが出来ない。それは、今、町田さんに思う気持ちに、似ている。

「お父さんは、美輝のこと、すごく好きだったよ」
「……知ってる」

 小さいときの写真は、いつもお父さんと一緒に映っている。わたしは、お父さんが大好きだった。休みの日になればいつもお父さんと公園に行って、キャッチボールをしたり、一緒に砂場で遊んでいたことを覚えている。

 風邪を引いたらお母さん以上に心配して、眠れないくらいわたしの様子を見に部屋にやってきた。「辛いよな」「大丈夫だぞ」「お父さんがいるからな」そう言って、大きな手でわたしの頭を撫でてくれた。

 ——『お父さんは、美輝とずっと一緒にいるよ』

 お父さんの口癖だった。お嫁に行くなよっていつも言っていた。

「でも、嘘をついた」

 一緒にいてくれなかった。気がつけばお父さんはいつもどこかに行っていて遊ぶことはなくなった。他の女の人と時間を消費していた。

 なによりも、今、一緒にいない。
 だから、嫌い。お父さんなんて嫌い。
 思い出すと涙が溢れてきて、慌てて拭った。

 わたしが泣くとお母さんが困る。お母さんも泣きたいのに、泣けなくなってしまう。