「そういや、オレ今度試合でスタメンかも」
「え!? ほんと!? すごいじゃん!」
病院を後にして、ふたりでのんびりと駅まで歩いていると、賢が今思い出したかのように言い出した。そんなに強い部ではないけれど、二年にも三年にもそれなりの人数がいる。にも関わらず一年でレギュラー入りどころかスタメンなんて、なかなか出来ることじゃないだろう。
「今度は怪我しないようにね」
「うるさいなあ……」
からかうと、舌打ち混じりに返されてしまった。相当恥ずかしい思い出なのだろう。
「そのときはまた、泣いてもいいよ」
「……泣かねえ」
「わたしも、また賢の前で泣くだろうからさ」
ふふっと笑うと、賢はちょっとだけびっくりしたような顔をした。
変化を、どうしても認めたくなかったわたしは、もうひとつの変化にもずっと蓋をして過ごしてきたんだってことにやっと気付いた。
大事だから、雅人の前では笑ってほしくて涙をこらえた。だけど、賢の前では素直に泣いたり笑ったりが出来た。雅人には笑っていてほしいと思う。だけど、賢には泣きたかったら泣いていいんだと思う。わたしの前で、泣いてくれたことが嬉しいとも思った。
この気持ちの名前を、わたしは薄々気付いていた。
だけど、それを認めると、雅人と約束したくせに、裏切るような気がして怖くて、見て見ぬふりをした。
そばにいることに緊張する人。
だけど、一緒にいると安心できる人。
特別な、人。



