「もしも、万が一、雅人がいなくなっても、わたしがいてあげる」

「……え?」
「だから、生きて。体に戻って、雅人に、話しかけて」

 だって、それしか方法がないの。

「雅人を、笑顔にできるのは、貴美子しか、いない」

 涙が溢れて、喉が苦しい。それに耐えるように言葉を吐き出せば、余計に涙が落ちる。

 雅人の全てを受け止められるのはわたしでありたかった。雅人にとってそういう存在になりたかった。雅人を笑顔にするのはわたしだと思っていた。ずっと一緒にいたから、雅人を笑顔にできるって信じていた。

 だけど、わたしには出来ない。

 だから、お願いだから、雅人を助けてよ。

「あんたなんか大嫌いだけど、今すぐ消えて欲しいけど……やっぱり、生きて、雅人のそばに、いてよ」

 笑顔が好きだから、無理して笑ってほしくない。無理して涙を飲み込んでほしくない。

 わたしのように、強がらなくていいんだ。泣きたいなら泣いてほしい。その代わり、笑いたいときには思い切り笑っていてほしい。

「……ほんと、ややこしい幼馴染みよね」

 すん、と鼻をすすって町田さんが言った。

 涙と鼻水で汚れた顔を向けると「やっだ、汚い顔」と笑われた。自分も同じような顔をしているくせに。元の造りがきれいだから、町田さんは涙でぐちゃぐちゃでも様になっているのがいやな感じだ。

「……男の子と一緒にいた理由も、信じてくれる、かな」
「何度も言わせないでよ、むかつくから。さっき自分でも言ってたでしょ」

 不安そうな笑顔で呟いた町田さんを見て、悔しいけれど……雅人が信じる気持ちがわかった。

 こんなふうに雅人のことが大好きなんだなって感じるこの町田さんが、雅人を裏切ることはないって、わたしも仕方ないから信じるよ。

 もしかしたら、お父さんも真実は違ったのかもしれない。

 ううん、真実であったとしても、それでも、わたしの信じるお父さんだったのかもしれない。