コーヒーの甘くほろ苦い香りが職員室に広がる。
まだ何も食べていなかった柚の『食欲』という欲が、活発に動き出した。


「もしかして何も食べてない?とか」


苦笑いする柚に、花畑 蜜はポケットからひとつチョコレートを出して渡した。
『ひとつしかないけど、美味しいよ』と。
柚は『ありがとう』と小さな包みを受け取ると、早速口に含んだ。


「ほんとだ。美味しい!これ、どこか有名なお店の?」


目を丸くして喜ぶ柚に花畑 蜜がコーヒーを運ぶ。


「美味しい?良かったぁ。あ、これ、普通のチョコです。ただし、手作り」


「手作り?」


柚の心臓がまた大きく音を立てる。
それって、彼女からもらったもの?
これは彼女の手作りチョコだったの?
ショックで胸が熱くなる。
あぁ、食べるんじゃなかった。
そんな愛のこもったもの。