かおりをおいて、ブリキのじょうろを取りに来ると、ちょうど玄関から小山信也が出てきた。

「やっぱりな。声がすると思ったら、かおり帰ってるんだろ?」

「うん」

「あいつ今日は帰らないって言ったくせに。食材買いに行く前でよかった。今日は俺が夕飯作るんだよ、何食べたい?チャーハン?」

「う、うん。おいしければ何でも」

「ならチャーハンだ」

「あっ、待って」

 歩き出す信也を私は引き止める。

「管理人さん以外に、本当は謎なんてないんでしょ?うわさは所詮うわさで―――」

 なぜこんな言葉が出てきたのか分からない。

 忘れていたように風が動き始め、またあの花の香りが流れてきた。

「かおりがそう言ったの?」

 信也は背を向けたまま顔を少しこちらへ向けて言う。

「たぶん、今日か明日のうちに、謎の一つに出会うと思うよ。まあ、なにを不思議と捉えるかは人それぞれだけど。」

 信也は体を半分ラベンダー荘に向けると、視線を上の方へ送りながら続ける。

「気づく人は気づくし、気づかない人はまったく気づかない。」

「ヒントは?」

 私の言葉に信也は軽く笑って答える。

「夜中」