「おっ、見晴台だ」

 信也はどこにそんな元気を隠し持っていたのか、木の標識を見るなり、最後の階段を駆け上がって行った。

 アキラも負けじとその後を追う。

 私はふらふらのかおりの手を上に引き上げながら、ゆっくりと上っていく。

「もう少しだ」

 康孝が一番後ろから声をかける。

 もう、かおりはしゃべることさえできない。

「かおり、がんばって」

 私は一段上から呼びかける。

 かおりは最後の段を苦しそうな声を発しながら、ついに上り終えた。

 見晴台では数人のグループが、身体を休めていた。

「ごくろうさま」

 私たちに向かって声が投げられる。

 それに康孝が手を上げる。

 信也とアキラは見晴台の木柵の内側ギリギリに立った。

「すげー、町中が見渡せる」

「うん」

 ずっと、木漏れ日越しに見えていた太陽が、目の前の空に浮かんでいた。

 そろそろ夕方という時刻。

 私もかおりと並んで、町を見下ろす。

「登れ、たんだね」

 かおりがかすれた声で言った。

「わたしたち、ちょっとすごいね」

 突風が私たちの間を吹きぬけていく。

 体中の湿気と熱を、浚っていくようだ。

 夕方の優しい太陽が、見晴台と人々を照らしている。