「明は死んだ弟の名前だった。」

「なんで亡くなってるって分かるの?」

「あたしをここに連れてきた両親らしいの人の家に、明の遺影があった。あたしは無意識に明の代わりに人生を生きようとしてるのかな。あたし、もしかして、明の死に関わってるのかな」

 かおりはアキラの顔を見つめている。



 アキラは泣きたくなった。

 過去のすべてが自分の作った憶測だ。

 確実なことは何一つない。

 いまだって、どこへいっても腫れ物あつかい。

 どうせここにいてもあたしは何も変われない。

 変わる自分がないんだから。



 アキラは両手で頭を抱え込んだ。

 かおりはアキラの首に手を回す。

 ひんやりとした手が、熱を持った首に気持ちよかった。

「私はアキラが、弟の代わりに生きてるとは思わないわ。」

 かおりはアキラの手を頭からゆっくりと下ろしていく。

「他人の代わりに人生を過ごすなんて、そう何年もできるものじゃない。」

 かおりはアキラを刺激しないように、優しく語り掛ける。

「私はアキラの過去に何があったのか知らない。でも、アキラを見てると罪悪感を両親や弟に感じてるように見える……もしね、そんな気持ちで、他人のために自分を犠牲にしようと思ってるなら、やめたほうがいい。償うことで安心したり、自分を痛めつけて罰を受けてる気になれるけど、それは単なる自己満足よ。」

 かおりはやさしくアキラを抱きしめる。

「アキラはアキラよ。貴女は楽しんでいいのよ、笑っていいの。なにも我慢することなんてない。……アキラはすごいわ、そうやって自分を責めて、全部の責任を自分で取ろうとするなんて、本当に優しくて強くないとできないことなのよ。私はアキラが好きよ。」

 柔らかい感触がアキラを包む。