ラベンダー荘はすでに春で満ちていた。

 敷地内の正面に敷き詰められた芝生には、タンポポの黄色い花と白い綿毛が点々と色をつけている。

『三ヶ月』

 私は忘れないように頭の中で繰り返す。

『三ヶ月経って見つけられなかったら、あきらめる』

 そう家を出てくるとき、両親に約束した。

 苦労してとった仕事の内定を蹴ってまで来たのだ。

 かならず見つけてみせる。

「お?お客さん?」

 声が降ってきた方に顔を上げると、さきほど痛いほど日差しを反射していた窓が全開になって、眼鏡をかけた青年が身を乗り出していた。

 まだ心の準備ができていない。

 この人が噂に聞くラベンダー荘の住人の一人だろうか。

「いえ。わたし渡辺優子といいます。今日からここに――」

「あああ、そうかそうか。今日だったっけ」

 わたしが全部言い終える前に、青年はぱっと表情を明るくさせて言った。

 ここに来る前にたくさん調べたラベンダー荘の住人のうわさが、頭をぐるぐるまわる。この人はいったいどの噂の人だろう。

「優子ちゃんね、聞いてるよ。鍵開いてるから適当に入って。いま俺以外いないんだ」