ポロン、ポロン。

「あっ。アキラのギターだ」

 本当に微かだが聞こえてくる。

 アキラが部屋で弾いているのだろうか。

「この雨の中、帰ってきたのかな」
 
 音は廊下からドアを通って聞こえてもおかしくないだろうに、聞こえてくるのは窓の外からだけ。

 きっとアキラの部屋の窓も開いているのだろう。

 ギターの音はまるで誘いかけるように流れてくる。

 それに合わせて、不思議な声のハミングはラベンダー荘の周りを静かに反響する。

 芝生の上を滑ったり、朝顔の蔓を上っては下り、バラの蕾で跳ね返ったり。

 ハミングは再び言葉に戻る。

『桃色の――』

 優しい雨の合間をぬって、アキラは歌い続ける。

『――サボテンの花』



 私は、窓の木枠に腰を下ろし、軽く目を閉じた。

 一つ目の謎は、やっぱり私をからかうためのものだった。

 それでも、私はなんだか嬉しくなる。 

 アキラはいまどんな顔をして、歌っているのだろう?

 不機嫌そうな顔?

 おそらく違う。

 私はどきどきしながら想像する。

 同じように窓辺に腰掛け、ギターを抱えて気持ちよさそうに歌うアキラ。

 その傍らで、昨日までここにあった丸くて白い小さなサボテンが、桃色の花を咲かせている姿を。