「…ハーブ」

 いきなり凶悪な表情になった女を目の前に、私は、これ異常ないほど気が動転する。

「えっと、別に、世話をしてないから攻めに来たわけじゃなくて。私が代わりにハーブを育ててもいいかって聞きに」

「ちっ!どいつもこいつも私は植物育ててそれで満足ですって顔しやがって。どうせあんたも噂の真相を確かめたくて来たんだろ?だったらそれだけやってればいいじゃないか!」

 アキラは心底否そうに顔をしかめる。

「お前らは贅沢すぎる!失ったものがはっきりと分かってるなら、なぜ取り戻すことだけに専念しないんだ!失ったものと向き合うのが怖いなら最初から探すな!」

「わたし怖いなんて思ってません!」

「あたしは途中で逃げるやつが一番嫌いだ!」

「なっ。誰も逃げてなんていないわ!」

 勢いあまって手に持っていたサボテンをアキラに押し付け、廊下を走って階段を駆け下りる。

 かおりと信也が驚いて、共有キッチンのテーブルごしに半分立ち上がるのが見えた。

 靴を履いて玄関を飛び出す。

 新鮮な空気が体を包み込み、強制的に肺に進入してきた。

「なによ、完全に八つ当たりじゃない!」

 私は玄関で立ち尽くす。

 確かに、かおりが言うように難しい子だ。

「サボテン、渡してきちゃったけど、返してなんて言いに行くのやだな……」