キスから始まる方程式



バレンタイン当日。



「っだ~っ! お母さんっ、台所は帰ってきたら片付けるからそのまま置いといて!」

「え? ちょっと七瀬っ、さすがにこれは……」

「ごめん! 遅刻しちゃうから話はまたあとで! それじゃ行ってきま~すっ」

「えぇっ!? 七瀬! 七瀬ってばーっ! んもう……っ」



悲惨なくらいに散らかった台所をそのまま放置し、猛ダッシュで学校へと急ぐ。


ホームルーム開始の時間まで、あと10分しかない。



今年は気合入れてガトーショコラ作ったけど、ほんっと難し過ぎ! 何回も失敗しちゃったよ~……っ。



夕べはほぼ徹夜状態で何度も作り直し、ようやくなんとか口に入れられる代物が出来上がったのが今からわずか30分前のこと。


多少形はいびつだが、背に腹はかえられない。


もともと料理が苦手な私には、若干ハードルが高すぎたようだ。



でも間に合ってよかった~! 翔、喜んでくれるかな……。



キレイにラッピングを施し手さげに入れたそれを、翔への気持ちを込めるようにギュッと胸に抱きしめる。



私の想い、翔に届きますように……。



そっと心の中でそう呟き、再び学校へと走り出した。