「……ってー……。こんっの、何しやがる!」



ひっぱたかれた左頬を手で押さえながら、桐生君が私を怒鳴りつけてきた。



「『何しやがる』ですってーっ!? それはこっちの台詞よ!」



負けじと私も、怯むことなく大声で言い返す。



「んだと? 助けてやったんだろ? なんで俺がひっぱたかれにゃなんねーんだよっ」

「助けてくれたのは感謝してるけど、なにもキスすることないじゃないっ」

「んなこと言ったって、じゃあ他にどうすればよかったってんだよ」

「う……そ、それは……なんとゆーか……その……」



痛いところを突かれ、途端に歯切れが悪くなる私。


そんな私のわずかな隙を突いて桐生君の腕が私の顔へと伸び、クイっと顎を持ち上げてきた。



「ちょっ、なにすんの……っ」

「べつに、キスが初めてってワケでもないんだろ?」



唇が触れてしまいそうなくらいの至近距離で、桐生君が私の瞳を見つめながら呟く。


不覚にもドキドキと騒ぎだす胸の鼓動。



「あ……」



私の答えを聞く前に、再び桐生君が切れ長の瞳を閉じ唇を重ねてきた。……のだが……



バッチーン!



「ぐっは……」



キスされる直前に今度は桐生君の右頬へ力いっぱい平手打ちをお見舞いし、全速力でその場から逃げ出したのだった。