「翔……、ホントごめんね……」
それからほどなくして、ようやく冷静さを取り戻してきた頃
「こ~ら。俺の女、泣かしてんじゃね~よ」
私の耳に、心地よい聞き慣れた声が鳴り響いた。
「桐生君!」
ようやく待ち合わせ場所に現れた恋人の姿に、ドキンと鼓動が跳ね上がる。
それに加え、公衆の面前での堂々たる『俺の女』宣言も相まって、まさに私の胸はキュン死に寸前状態だ。
しかしそんな幸せ気分も束の間、理数系専攻の性なのか
『泣いている私+翔に頭を撫でられている=二人はと~っても親密な仲』
という数式が、間髪をいれずパッと頭の中に閃いた。
は……っ! も、もしかしてこの状況って、ものすごくメチャメチャヤバいんじゃ!?
先程の涙から一転、我に返った私の額には、今や冷や汗が浮かんでいる。
無理もない。
恐らくこの現場を目撃した10人中10人が、先程の数式通りの答えを導き出すだろう。
しかもその相手が実は嫉妬深い恋人の桐生君なのだから、どう考えても誤解されないわけがない。
「あ、あのね桐生君、これはね、えっと……その……っ」
なんとかこの状況を説明しようとするのだが、例のごとく肝心な時にうまく言葉が出てこない。
そんな中頭をよぎるのは、二人が殴りあう最悪の光景。
けれどそんな私の懸念をよそに、ふと見上げた桐生君の瞳は驚くほどに穏やかなものだった。

