「なんで、黙っちまうんだよ」
苛立ったように桐生君が私を促す。
それでも頑として口を開こうとしない私に、見る見るうちに桐生君の眉間に深いしわが刻まれてゆく。
やがて辛そうに切れ長の目を細め苦悶の表情を浮かべると、「わかんねーよ」と吐き捨てるように小さく呟いた。
「風間と付き合うわけでもない、俺のことが嫌いになったわけでもない……。じゃあなんで俺と別れようなんて、……っ!?」
声を荒げ、まくし立てる桐生君。
しかし途中まで言いかけると、ハッと何かに気が付いたようにプツリと口をつぐんでしまった。
嫌な予感に、冷たい汗が背筋をつたい落ちる。
見つめた桐生君の瞳が困惑と動揺でゆらゆらと揺らめき、その予感が紛れもない現実となってしまったことを物語っていた。
「もしかしてお前、俺と凛のために……身を、引いたのか……?」
「……っ」
声を震わせながら、愕然とした表情で私をみつめる桐生君。
震えているのは声だけでなく、私の肩を掴んだままの手もカタカタと小刻みに震えていた。
「…………」
シン……と辺りが静寂に包まれ、緊張から空気が張り詰める。
ここまで気付かれてしまったら、もうどんな言い訳をしたところで言い逃れなど出来ないことはわかっている。
それでも、ここでもし私がその事実を認めてしまったら……。
そう思うとなんとなくこれから先、桐生君に後ろめたさのようなものを抱えさせてしまうような気がして、私はどうしても返事をすることができなかった。

