「……だから」
「え?」
「だって、桐生君のことが好きだから……っ」
「っ!?」
私の言葉に驚き、目を見開いたまま絶句する桐生君。
きっとこんな真実、これっぽっちも予想していなかったにちがいない。
「なに……言って……。お前、俺のことが嫌になったから…… 別れたんだろ……?」
半信半疑な面持ちで何度も瞬きを繰り返し、声をつまらせながら私に問いかけてくる。
この様子ならば、今から否定すればまだ、冗談で済ませたかもしれない。
本当はそうするべきなのだろう。
けれど一度溢れ出した想いは、もう止めることなんてできなくて……。
自分の中の“理性”という名の壁が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちて行くのを感じながら、私は更に言葉を続けた。
「嫌いになんて…… なれるわけ……ない……っ」
「っ!?」
虚を衝かれたように、桐生君が再びカッと目を見開く。
憤りと混乱に満ちたその瞳が、この先に続く言葉を早く教えてくれと私に訴えているのがわかった。
しかし……
「……」
それ以上何も言えなくて、唇をギュッと噛む私。
私が身を引いたなんて言ったら、本当に桐生君と工藤さんの仲までおかしくなっちゃう……。
そんなの…… やっぱりそんなの絶対ダメっ!
無残に崩壊した中にも、わずかながら心の片隅に残っていた理性の欠片が、これ以上言ってはいけないと最後の最後で私自身にブレーキをかけたのだった。

