キスから始まる方程式



「あ……っ、あの……、私……っ」



声が、震える。



“はい”とも“いいえ”とも答えることができず、言いよどんでは口を閉ざしてを繰り返すばかり。



それでも、もし仮に桐生君がそのことを翔以外の人から聞いたのであれば、私は断固として嘘をつき通したかもしれない。


できることならば、やはりそうすることがお互いにとって最善のことのように思える。


けれどやはり、当の本人である翔から聞いたとあってはそうもいくまい。


特別優秀なわけでもない私の脳でいくら逃げ道を探したところで、言い逃れできないことは目に見えていた。



どうしよう…… どうしよう…… どうしよう……!



馬鹿の一つ覚えみたいに、困惑の単語ばかりが頭の中をグルグルと駆け巡る。


それに加え、押し黙ってしまった桐生君からは無言のプレッシャーのようなものまで感じる始末。


そのせいでただでさえ回転の鈍い脳ミソが更に萎縮してしまい、どうにもならない程すっかり凝り固まってしまった。



そしてついに何十回目かの“どうしよう”を心の中で叫んだ時



ガシッ



「きゃっ!?」



突然両肩に衝撃が走った。



えっ、なに……っ!?



混乱の中、驚きと弾みで反射的に目を瞑ってしまった私。


状況を把握すべく、ギュッと閉じた目を恐る恐るゆっくりと開けてみる。



……っ!?



「桐……生君……」



薄っすらと開いた私の瞳に飛び込んで来たもの。


それは、恐いくらいに真剣な目で私を見つめる桐生君の顔だった。