「このあと……なんか予定あるのか?」
「っ!」
瞬時に胸の鼓動がドキリと跳ね上がる。
……? なんでそんなこと聞くの? 桐生君はこれからここで、工藤さんと一緒に過ごすんじゃないの?
桐生君の意味深な一言に、次から次へと湧いてくる疑問の数々。
しかしそんな思いとは裏腹に、頭で考えるより先に言葉のほうが口をついて出ていた。
「う、ううん! 全然なんにもないよ!」
大袈裟なぐらい激しく、顔と両手をブンブンと左右に振りながら答える私。
そんな私を見て、なんだかほっとしたように桐生君の顔が優しく綻んだ。
あ……。
昔を思い出させるその砕けた笑顔に、おもわずキュンとなる私の胸。
だ、ダメだってば私! 笑顔ひとつでなに喜んでんの!?
桐生君の一挙一動にいちいち過敏に反応してしまう自分に、すかさずダメ出しをする。
するのだが……
ときめいたりしちゃ絶対、絶対……ダメなのに……。
しかし私の意に反して、桐生君からのカウンター攻撃は止まらない。
「もしよかったら、その……少し話でもしないか?」
「えっ!? は、話……っ!?」
驚きのあまり上擦りかけた声をどうにかこらえ、飛び跳ねそうな体に力をこめる。
この先のことを思えば、この時即座に申し出を断るべきだったのかもしれない。
話をすればするほど…… 桐生君と一緒にいればいるほど、きっと辛い気持ちは募る一方だから……。
けれど、またしても体が条件反射のように勝手に動き出す。
気が付くと私は損得勘定など一切無視し、コクリと小さく頷いていたのだった。

