キスから始まる方程式



「……翔、……なに……言ってるの?」



言葉の意味を図りかねて、震える声で聞き返す。



「南條とは……本当は初めから、こうなることはどっかでわかってたんだ……」

「え……? だって……翔、南條さんのこと大切にしなくちゃって……」




待って……。




「あぁ。無理矢理そう自分に言い聞かせて、流されるまま毎日やり過ごしてた」

「キスだって……してたじゃない……っ」




待ってよ……。




「おまっ、見てたのか!? ……あの時も自分の気持ち押し殺して、その場しのぎで取り繕ってたんだ」

「もしかして……南條さんのこと、最初からずっと……好きじゃなかったの……?」

「…………あぁ」

「っ!」




じゃあなんで私は、翔のこと諦めなくちゃいけなかったの?




「意地張って付き合い始めて……なんとか好きになろうと思って頑張ったけど、やっぱダメだった……」

「そんな……」




あんなに辛い思いまでして忘れようとした私は、いったいなんだったの?




「南條には本当に悪いことしたと思ってる。俺のせいで今まで散々振り回しちまって……」

「……」

「どんだけ自分勝手なことしてんのかもわかってる!
……っ、けど、お前が他のヤツらから酷いことされてんの見て、もう自分の心を騙し通すの限界だと思ったんだ……っ」




―― 私は……、私は翔のこと、忘れなくてもよかったの!?




「俺はもう、自分の気持ちに嘘はつかないよ」

「え……?」



全身が凍りつく。


今目の前で何が起きているのかわからず、まるで消しゴムで消したみたいに頭の中が真っ白になった。