「南條とは……別れたんだ」
「え……?」
あまりの予想外の言葉に、掴んでいた手が袖から滑り落ちる。
わか……れた……?
「だから……だから、もういいんだ」
誰と……誰が……別れたの……?
「それに、そんなの七瀬が気にするようなことじゃない」
翔は……南條さんのことが好きなんじゃなかったの?
「だからもうこのことは……」
「だめ……」
「? 七瀬?」
「だめだよそんなの……っ。そんなの絶対だめだよ!」
「っ!」
気が付くと私は、翔に向かって大声で叫んでいた。
「私のせいなんでしょ? 私と翔の写真見たから、それで南條さんが誤解してそんな話になっちゃっただけなんでしょ?」
「七瀬……」
「だったら、やっぱり絶対だめだよっ。私のせいで翔の幸せまで壊れちゃうなんて、そんなの私耐えられないよっ」
たまらなくなって目をギュッと閉じ俯く私。
「……じゃない」
「え……?」
雨音に紛れて、翔の声が掻き消される。
もう一度聞き返すように顔を上げると、苦しげに顔をしかめた翔がギリリと奥歯を噛みしめ再び声を発した。
「誤解なんかじゃない……っ」
「っ!」
先程とは違った意志の通った力強い声に、私の肩がビクッと大きく跳ね上がる。
それまで逸らされていた翔の瞳が真っ直ぐに私を見据え、その奥には臆することのない決意ともとれる炎が宿っていた。

