キスから始まる方程式



「あの……翔?」

「ん?」

「昨日はその……いっぱい迷惑かけちゃってごめん」

「あ、いや、俺はべつに……」

「保健室へも運んでくれたんでしょ? また翔に、重いの担がせちゃったね」

「ば~か。毎日筋トレしてりゃ、あれくらいどうってことね~よ」



これ以上翔に気を遣わせたくなくて、わざと冗談まじりにおどけてみせる私。



けれど……



「あの後……南條さんとはちゃんと仲直りできたの?」

「っ!」



南條さんの話題を出した途端、翔はどこか気まずそうに私から視線を逸らした。


嫌な予感が私を襲う。



―― まさか……



「もしかして、まだ仲直りしてないの!?」

「……」



翔は私の問いかけには答えず、ただ黙って地面の水溜まりを見つめている。



なんで……!?



翔が行動を起こさない理由がわからず、疑問符ばかりが私の頭上を旋回する。



どうしよう、私のせいだ。


私が翔の好意に甘えて頼ってばかりいたから、きっと南條さんが怒って許してくれないんだ……!



そう思った私は、翔の制服の袖をギュッと掴んだ。