キスから始まる方程式



「さっ! 橋本さんももう授業に戻りなさい」

「で、でもっ」

「結城さんには先生がついてるから大丈夫だから。
橋本さんまでこのまま授業に出なかったら、結城さんがかえって心配しちゃうわよ?」

「う……。……はい」



先生に諭された麻優が、制服の袖でゴシゴシと顔をこすり名残惜しそうに立ち上がる。



「橋本さんね、結城さんが眠っている最中にどれだけ授業に戻るよう言っても、泣きながら「七瀬のそばにいる」って頑として聞かなくて。
今までずっとあなたの手を握って、見守っていてくれたのよ?」



重い足取りで保健室を出て行こうとする麻優を見て、先生が私にそっと耳打ちして教えてくれた。



あ……!



「麻優! ありがとうっ!」



たまらなくなっておもわず叫んだ私に、麻優はニッコリといつもの天使スマイルで振り返ると



「エヘッ! 七瀬またね!」



そう言って教室へと戻って行った。




「いいお友達を持ったわね」



麻優が出て行った出入口を見つめながら、大内先生が穏やかに呟く。



「はい、自慢の親友なんです!」



そう。いつも笑顔でとっても頼りになる、私の大切な大切な親友。



私も麻優のように強くなりたい。



自分のことよりも相手を思いやることができる、広くて大きな優しい心を持ちたい。



心の底から、そう思った ―― ……