「足がこのぐらいで済んだのも翔のおかげだよ。お礼が遅くなっちゃったけど、本当にあの時はありがとね」
「えっ!? いやっ、俺はそんなたいしたことしてないしっ」
昔の私ならすぐ意地を張ってしまい、翔にお礼なんてなかなか言えなかった。
けれど、なぜだか今は素直に気持ちを伝えることができる。
それは私が成長したからなのか、それとも翔に対する恋愛感情がなくなったからなのか……。
そんな私を見て、翔は否定するようにブンブンと顔の前で手を振り、そのまま一歩後ずさる。
その時不意に、翔のポケットから白い小さな物がカサリと床に落ちた。
なんだろ? 紙……?
「翔、なにか落ち……」
「えっ?」
身を屈めてその紙片を拾おうとした瞬間、突然翔がものすごいスピードでそれを遮った。
「わっわわわ~っ! お、俺が拾うからっ」
先程以上に動揺した様子の翔が、私よりも先に勢いよく紙片を拾い上げる。
そしてそのまま確認することもなく、くしゃりと右手で握り潰すと乱雑にポケットへ仕舞い込んでしまった。
「あの……翔……?」
あまりの激しい勢いに、おもわず呆気にとられる私。
「あは、あははは……。んじゃ、俺着替えてくっから……」
そう言うと翔は「またな」と顔をひきつらせて笑い、まるで逃げるようにそそくさと立ち去ってしまった。
「翔、なんか変なの」
いつもと様子が違う翔に小首を傾げながら、改めて上履きに履き替える。
けれど自分のことでいっぱいいっぱいだった私は、特にそれ以上気に留めることもなく、再び重い足取りで教室へと歩き始めた。

