「翔……」
おもわず翔の名前が口を突いて出る。
「え……、おわっ!?」
私の声に気が付いた翔は、驚いたように目を丸くしながら慌てて下駄箱の蓋をバタンと勢いよく閉めた。
「そんなに驚かなくても……」
「あ、はは……。いや、ちょっと考え事してたからさ、つい……っ」
目を左右に泳がせながら、どこか落ち着かない様子の翔。
そんなに驚かせてしまったのだろうかと若干申し訳なく思っていると、相変わらず慌てた様子で翔が話しかけてきた。
「きょ、今日はいつもより早いんだな」
「うん。なんか目が冴えちゃって……」
「そういえばアイツは? ここんところよくチャリで一緒に来てたみたいだけど」
翔が言う“アイツ”とは、きっと桐生君のことだろう。
朝練や部活の時、校庭脇を自転車で2人乗りして通り過ぎるのをたまたま目にしていたのかもしれない。
「足のケガ、すっかり良くなったから……。もう自転車で送り迎えしてもらわなくても大丈夫になったの」
「おぉそっか! そいつはよかった」
私の話を聞いて、よかったよかったと安堵の笑顔で何度も頷く翔。
一週間前のリンチの一件以来、翔が私を避けることもなくなり、普通に挨拶を交わす程度までになんとか関係は改善された。
さすがに昔のような関係に戻ることはきっともうできないけれど、それでも避けられているよりはずっといい。
そういえば、ケガがこの程度で済んだのも翔が助けてくれたおかげだよね。
今更ながらそのことに気が付いた私は、改めて翔にお礼の言葉を伝えることにした。

