キスから始まる方程式



やっぱり……桐生君にもう一度聞いてみようかな……。



そうは思うものの、もしも桐生君が嘘をついていたとしたならば、「本当は付き合っていたの?」と私が聞いたところで、到底真実を話してくれるとは思えない。



それならば……



残された方法はただ一つ。



―― 桐生君の左胸のホクロの有無



付き合っていた云々の本題には触れずにそれだけを確認するのが、最も確実で簡単な気がする。



でも、もしも工藤さんの言うとおり本当に桐生君の左胸にホクロがあったらどうしよう……。



そう考えただけでゾクリと背筋が寒くなる。


想像しただけでも胸が張り裂けそうなほど苦しいのに、それが現実となってしまったら、いったい私はどうなってしまうだろう?



過去のことだからと、大人な女性を装って全てを胸の奥に仕舞い込み、今までと変わらぬ日々を過ごすべきなのだろうか。


いや、待てよ? そもそも過去の出来事ということ自体が既に間違いであり、今現在も私の知らないところで二人が身体を重ねるような関係だとしたら……。



まるで悪夢のような妄想ばかりが、負の連鎖のように次々と浮かんでは募って行く。


こんなことをいくら思い悩んだところでどうにもならないことはわかってはいるのだが、最早自分ではどうすることもできなかった。



「はぁ……っ」



再び深い溜め息をつき、重い足取りで校内へと入って行く。


靴を履きかえるために下駄箱へ歩み寄ると、不意に体操服姿の翔が視界に飛び込んで来た。