「冬真さ~、夢中になると見えるところにキスマークつける癖があるから、気を付けたほうがいいわよ~」
え……?
背後から聞こえてきた工藤さんの言葉に、廊下に出しかけた私の足がピタリと止まる。
全身が凍りついたように固まって、耳を塞ぎたいのに指一本動かすことができない。
―― 工藤さんは何を言ってるの?
先程の言葉がグルグルと頭の中で反芻している。
けれど私には、まるで異国の言葉を聞いたのではないかと思えるくらい、一向に内容を理解することができない。
「あ~! もしかして信じてないでしょ~」
―― 信じる? 何を?
「しょ~がないな~。ん~……それじゃ、冬真の左胸にホクロがあるから本人に確かめてみたら?」
―― 左胸にホクロ?
ピンと空気が張り詰める。
ねぇ……、なんであなたがそんなこと知ってるの?
瞬く間に全身から血の気が引き、目の前がゆらゆらと歪んで見えた。
「さ~てとっ、用事も済んだことだしそろそろ帰ろっかな~」
一向にその場から動くことができない私を尻目に、工藤さんが軽快な足取りで脇を通り過ぎて行く。
「あ、そうそう! 困ったことがあったらいつでも相談に乗るから、何でも言ってね」
振り向きざまに満面の笑みでそう言うと、結局最後まで何も言い返すことができない私を残し愉しそうに廊下へと消えて行った。

