平常心……笑顔……平常心……笑顔……
目が合わないよう俯き、念仏のように繰り返し頭の中で呟きながら、ひたすら歩を進めて行く。
工藤さんの視線が私の顔に突き刺さるのを痛いくらいに頬に感じながら、それでもなんとか自分の席に辿り着いた。
どうしよう。気まずい……、気まず過ぎる。
ガサゴソと机の中を探りながら、再び頭の中で必死に考える。
これはやはり、何か話しかけるべきなんだろうか……。でもでも、何話したらいいかわかんないし……。
予想通り何も思いつかず、すぐさま煮詰まる私のポンコツ脳。
そうこうしている間にお目当ての数学の教科書もみつかってしまい、ここにいる理由もなくなってしまった。
このまま何も話さずに帰るのもなんだか後味悪いし……。それに工藤さんも本当は悪い人じゃないはずだもん。
私が意地張らないで普通に話しかければ、案外すんなり会話ができるかも……っ!
ようやくのことでそう思い直した私が、まずは当たり障りのない天気の話から……などと脳天気なことを考えながら口を開きかけた瞬間
「ねぇ七瀬ちゃん」
「えっ?」
思いがけず私よりも先に工藤さんが、沈黙の糸をプツリと断ち切ったのだった。

