「工藤さん……」
胸の鼓動が瞬時にドクンと跳ね上がる。
彼女に対して以前のように警戒する気持ちは、桐生君が過去を話してくれたことで薄らぎはしたのだが……。
やはり二人きりで対面するとなると、どうしても緊張せずにはいられない。
彼女の気持ちを思うと胸が痛むし、正直何を話したらいいのかわからないのだ。
完全に教室に入るタイミングを逃してしまい、その場でしばし立ち尽くす私。
どうしよう……。工藤さん、まだ帰らないのかな……。
ひとりで何してるんだろうと、改めて彼女の視線の先に目をやると、驚きから再び私の胸がドクンと激しい音を立てた。
あれ……桐生君の席……っ!
悲哀に満ちた工藤さんの瞳が、桐生君の机を切なげに見下ろしている。
愛おしいものを愛でるかのように、ゆっくりと左手で机を撫でるその様はあまりにも物憂げで、私の心の奥底にあった不安をザワリと掻き立てた。
やっぱり工藤さん、桐生君のこと……。
目の当たりにしてしまった彼女の心の内に、動揺が身体中を駆け巡る。
わかっていたこととはいえ実際に辛そうな彼女の姿を見てしまうと、とても平常心ではいられなかった。
「冬真……っ」
っ!?
苦しそうに桐生君の名を呼ぶ工藤さんの掠れた声が、更に追い打ちをかけるように私の耳の奥に突き刺さる。
もうこれ以上……見てられないよ……っ
どうにも辛くて居た堪れなくなった私は、その場から逃げ出そうと震える足でゆっくりと一歩後ずさった。

