* * *



「うっわー! 風が気持ちい~っ!!」



6月の爽やかな風が、私の頬を涼やかに撫でて行く。


自転車の荷台に横乗りし、予想外の楽しさに興奮して足をパタパタさせる私に「あんま暴れっと落ちるぞ」と運転している桐生君から注意が飛んできた。



「うんっ、大丈夫!」



エヘヘとニヤつきながら、桐生君の腰へ両手を回す。


そのまま寄りそうように背中に顔をくっつけると、桐生君の体温がポカポカと伝わってきて心までジンと温かくなった。



―― 幸せ……



瞳を閉じて桐生君に体を預けていると、自然と頭の中にその言葉が浮かんできた。



桐生君と一緒にいられて触れ合って……こんなふうに幸せを感じられるなんて、“怪我の功名”ってまさに今の私みたいなことを言うんじゃないかな。



なんとも不謹慎なことを思いつつ、どっぷり幸せに浸る私。


すると、すっかり大人しくなって黙ってしまった私を怪訝に思ったのか、桐生君が心配そうに声を掛けてきた。



「七瀬、大丈夫か?」

「へっ?」

「なんか、急に静かになったけど」



騒がしくても心配されてしまうし、逆に大人しくしていてもそれはそれで心配されてしまう。


桐生君からは私の姿が見えないだけに、もしかすると余計に気掛かりなのかもしれない。


それでもそんな私のことを心配してくれる桐生君の思いがまたなんとも嬉しくて。


私は桐生君に「大丈夫だよ!」と答えた後、明るい話題を選んで元気な声を意識しながら話し始めた。