「ジャジャ~ン! どうだっ!」



放課後の駐輪場でエッヘンと胸を張りながら、桐生君が得意顔で私を見下ろす。



「桐生君、これ……」



私の視線の先に映ったのは、どう見ても桐生君とは不釣り合いな真っ赤な可愛らしい自転車だった。



「ママチャリ……だよね……?」



荷台に手を置いて、おもわず桐生君を見つめる私。



「当たり前だろ? 荷台がなきゃ七瀬乗せらんねーし」

「…………桐生君、いつもママチャリ乗ってるの?」



どう考えても桐生君とママチャリの組合せが結びつかない。


そんな私の素朴な疑問に、桐生君が驚いたように慌てて否定をした。



「ばっか! 俺がこんな女モンの自転車に乗ってるわけねーだろ!? これはお袋のだよ、お袋っ!」

「桐生君のお母さん……?」



なるほど。


道理でサドルの位置も低いわけである。



そういえば今日、5時限目開始寸前に汗だくで教室に戻ってきたっけ。



おそらくは昼休みに学校を抜け出し、ママチャリを取りに電車で三つ先の自宅へ戻ったのだろう。


電車と自転車での移動時間を考えると、約一時間しかない昼休みではかなりギリギリだったに違いない。



お昼ご飯だってちゃんと食べられたかどうか……。



そこまでして私のために一生懸命になってくれる桐生君に胸が熱くなり、自然と顔が綻んでしまった。