「今朝はどうやって登校したんだ?」

「うん、さすがにまだ長距離は歩けないから、お母さんに車で送ってもらったの」

「やっぱりな。連絡くれれば、俺が迎えに行ったのに……」



そう言ってムスッと不機嫌そうな顔をする桐生君。


やはり怒りの原因は、私の予想通り連絡しなかったことにあるらしい。



でもやっぱり、桐生君には心配も迷惑もかけたくなかったし……。



どうしたものかと困惑しながら思いあぐねていると、突然桐生君が「よしっ」と意を決したように声をあげた。



「今日の帰りから、送迎は俺に任せろ!」

「へっ?」



思いもよらない桐生君の申し出に、目を丸くする私と麻優。



「で、でもっ、帰りもお母さんが迎えに来てくれるから大丈夫だよ?」



慌てて言葉を付け加える私に、桐生君が眉間にしわを寄せ「ダメだ」と怖い顔で反論してきた。



「七瀬んちのお袋さん、それでなくても仕事で忙しいだろ?」

「うん、まぁ……」



確かにうちは共働きで、お母さんの勤務時間もかなり変則的。


必然的に仕事を抜け出しての送迎になるため、申し訳なくて心苦しくは思っていたのだけれど……。



「こんな時ぐらい彼氏を頼らなくてどーすんだよ」

「あ……」



―― 彼氏……



不意に桐生君の口から飛び出した言葉に、ドキンと鼓動が跳ねる。


他の人からすれば、なんの変哲もない極当たり前の言葉。


けれど、それが桐生君本人の言葉だと思うと、なぜだか妙に嬉しいようなくすぐったいような……そんな気持ちで胸がいっぱいになった。



ほんのりと熱くなる頬を、気付かれないようそっと俯く。


そしてしばしの沈黙の後



「じゃあ……お願いします」



消え入りそうな小さな声で、私はそう呟いた。