「まっ、とりあえずそれは置いといて……」



さっきまでの意地悪顔が一変、その言葉を境に桐生君の表情が真剣なものへと変わる。



「いったいどうしたんだ? そのケガ」



ちょっと怒ったふうな桐生君の声と視線が、チクリと私に突き刺さる。


もしかすると昨日のうちに連絡しなかったことに、少なからず腹を立てているのかもしれない。



「あはは……。その……これはですね……」



まるで蛇に睨まれた蛙のように桐生君の鋭い視線に固まってしまった私は、動揺丸出しのおかしな丁寧口調で、先程麻優にしたのと同じ説明を再び始めた。





「―――― …… ってなわけでして……」



後ろめたさも相まって、相変わらずおかしなしゃべり方で言葉を続ける私。



本当は桐生君に嘘などつきたくない。


けれど事実を告げれば、桐生君にいらぬ心配をかけてしまうのは明らかである。


それになにより翔に助けてもらったなんて、せっかく鎮火した桐生君の嫉妬心にまた火が付いてしまいそうで、口が裂けても言えそうになかった。



「……ふ~ん……」



おどおどと、どこか落ち着かない私に、釈然としない様子で桐生君が疑いの眼差しを向けてくる。


桐生君の視線から逃れるように顔を逸らすと、早くこの話を切り上げたくて「本当にたいしたことないから」とわざと笑顔でなんてことないアピールをした。



お願いだからこれ以上ツッコまないで~!



口には出せないかわりに、心の中でおもいきり叫ぶ私。


けれどそんな私の願いも虚しく、桐生君が拗ねたような顔で話を続行する。