ドキンッ!



せっかく落ち着いていた鼓動が、再び速度を増して行く。


温かな翔の大きな手が、ゆっくりと私の髪を撫でるように往復する。


まるで最愛の人を愛でているかのように、優しく、何度も……何度も……。




やがてそんな私の髪をワシャワシャと掻き乱すと



「くまんちゅ、大事にしろよ」



そう呟いてニカッと笑ったのだった。



眩し……



久しぶりに見た翔の子供みたいな笑顔に、目の前がクラクラし思わず胸がキュンとなる。



だからといって、けっして「好き」とか「愛しい」とか、そんな恋愛的な感情ではない……。


……ない、はずなのだけれど……。


私のそんな思いに反して鼓動は、ドキドキと加速する一方だった。




「そんじゃ、今度こそ大内先生探してくっから」



ちょっと照れくさそうにそう言って、私の髪から手を離しドアへと歩み寄る翔。



「あっ……、か、翔! あ、りがと……っ!」



その背中に向かって私は、助けてもらったのにちゃんと言えてなかったお礼の言葉を改めて口にした。



「……っ! べつに、礼言われるようなことはなんもしてねーよ」

「えっ? でも……っ」



「そんなことないよ」と言おうとしたのだが、それよりも先に翔の姿はドアの向こうへと消えてしまった。




ひとり保健室に残された私は、翔に撫でられた髪にそっと手を添えてみる。



翔……。



すると、なんともいえないざわざわとしたものが心の中に沸き起こり、より一層私の胸を切なく締め付けたのだった。