ファサッ
えっ? あれ? “ファサッ”? “ドシン”じゃなくて?
倒れる直前に咄嗟に目をギュッと瞑ってしまった為、現状が全く把握できない。
倒れた時の衝撃どころか、なんとも心地よい温かさと柔らかさに体が包まれていることに気付いた私は、恐る恐るそっと目を開けた。
すると……
……っ!? わ、私ってばもしかして今、翔の腕の中にいるの!?
予想外の事態に、頭の中が真っ白になりパニックに陥る私。
状況から察するに、どうやら倒れそうになった私を翔が抱き留めてくれたであろうことはわかるのだが……。
どどどど、どうしようっ!! 体、動かないっ!!
早く離れなくちゃと思う心とは裏腹に、体が金縛りにでもあったかのようにカチンコチンに固まってしまい、指一本まともに動かすことができない。
心臓は破裂しそうなほど激しく鼓動を打ち鳴らし、呼吸をすることさえ困難だった。
「……七瀬っ」
「え……?」
その時不意に頭上で、翔が苦しそうに掠れた声で私の名前を呼んだ。
翔……?
次の瞬間、翔は私を抱きしめている腕に力をこめ、離れるどころかギュッとそのまま強く抱きしめてきた。
な……に……? 何が起こってるの……?
パニックを通り越した頭は完全に思考が停止し、今置かれている状況を全く理解することができない。
一瞬にして自分を取り巻く全ての音が一斉に私の世界から消え失せ、翔の息遣いだけが耳の奥にジンジンと響く。
ドキドキと物凄い勢いで体中を脈打つ鼓動が、果たして私の物なのかそれとも翔の物なのか……、それすらも最早私にはわからなかった。

