……くっ。
たまらず私もジリ……と後ずさる。
しかしもちろん全方位くまなく囲まれてしまっているため、背後にも女子生徒が待ち構えていたわけで……
ガシッ
「っ!?」
数歩ほど後退したところで、あっけなく後ろから二人の女子生徒に両腕を掴まれてしまった。
やっば!
グイッ
肩にかけていた鞄が、女子生徒によって強引に奪われドサッと派手な音を立てて勢いよく地面へと放り投げられる。
「あっ!」
くまんちゅが汚れちゃう!!
こんな状況で自分のことより鞄に付けたくまんちゅマスコットの心配をするのもどうかと思うのだが、そこはやはり超レアな限定品。
自分とくまんちゅマスコット、どちらの方が大切かと聞かれたら、間違いなく「くまんちゅ」と即答することだろう。
しかしそんな鞄に気をとられている私が気にくわなかったのか、リーダーの女の子が私の顎をクイッと掴み上げ、見下すような冷笑を浮かべ睨みつけてきた。
「随分余裕たっぷりみたいだけど、この状況がどういうことかわかってるのかしら?」
私を真っ直ぐに見据えるその冷ややかな瞳の奥には、青い炎がゆらゆらと揺らめき憎しみさえ伝わってくる。
やり方は間違っているが、この子はこの子なりにこんな凶行にまで及んでしまうほど本気で桐生君のことが好きなのかもしれない。
そんな彼女の姿と、以前南條さんと翔を切ない思いで見ていた自分の姿が重なり、なんだかとてつもなく複雑な気持ちになった。
けれどやはり、いくら切ない気持ちがわかるからとはいえ、こんな非人道的行為を許すわけにはいかない。
そう思った私は、奥歯をギリリと噛み締めるとリーダーの女の子をキッと睨み返し口を開いた。

